飲食店事業は、開業も撤退も多い競争の激しいビジネス
飲食店事業は、新規開業も撤退も多い非常に代謝の激しい市場です。宿泊業も含むため、正確な数字は把握できませんが、中小企業庁が発表している「開業率・廃業率の推移」から飲食店経営をはじめる人や続かない人の現状をうかがえます。
まず、「宿泊業・飲食サービス業」の開業率は17.0%です。続く「生活関連サービス業・娯楽業」の開業率が7.6%であることから、宿泊業・飲食サービス業は他業種より約1割合以上も開業する割合が高いことを示しています。
一方「宿泊業・飲食サービス業」の廃業率も、他業種と比べて高い数字(5.6%)です。つまり、飲食店事業は、参入しやすい一方で、つ撤退を余儀なくされることも多い厳しい事業領域といえます。
なお、2020年度の全体の開業率平均は5.1%、廃業率平均は3.3%でした。
飲食店経営の平均年収は?年収1,000万円以上は可能なのか
公的データではありませんが、飲食店経営者の平均年収は600万円前後といわれています。国税庁調査において、2021年の正社員(正職員)平均給与が508万円であることを踏まえると、独立して飲食店経営をはじめると今までよりも年収が高くなる可能性があるでしょう。
平均年収を考える際には、「年商」と「年収」が異なる概念であることを理解しておかなければなりません。「年商」は個人や企業が1年間で稼いだ経費などを考慮する前の金額であるのに対し、「年収」は個人の1年間の収入総額です。たとえば、居酒屋をはじめて年商1,000万円稼げるようになったとしても、原価や経費がかさめば個人として1年間に得られる年収は2〜300万円となりえます。
また飲食店に限らず、経営者の平均年収は、事業の規模や売上高、利益などの要素によって左右される点に注意が必要です。飲食店をはじめたからといって、正社員として働いていたころよりも収入が増えるとは限りません。
税の仕組みが異なるため一概には比べられませんが、2021年における給与所得者の平均所得金額が443万円(民間給与実態調査統計)であるのに対し、個人事業主のような事業所得者は425万円(申告所得税標本調査)です。つまり、飲食店経営のために独立したことで、今までよりも収入が減ることもあります。
一方で事業が波に乗り、複数店舗を経営するようになれば、年収1,000万円超も可能です。そのため「飲食店経営でどれくらいの年収が得られるか」ではなく、「どうすれば飲食店経営に成功できるか」に注目したほうがよいでしょう。
勝ち残る店の4つの共通点
飲食店経営で成功して数千万円の年収を稼げるようになる人もいれば、失敗して廃業に追い込まれる人もいます。そこで、飲食店経営を手がける前に「勝ち残る店」に共通しているポイントを理解しておくことが重要です。
主に、以下の4つが挙げられます。
ターゲットの絞り込みができている
明確なコンセプトがある
料理・接客だけでなく「経営」を知っている
開業前に飲食店の一通りの業務に触れている
各内容を詳しく解説します。
1.ターゲットの絞り込みができている
1つ目は、ターゲットの絞り込み(ターゲッティング)ができている点です。ターゲットを絞り込む際は、性別や年代、職業、生活背景などのさまざまな要素で顧客を分類します。
ターゲットの絞り込みが不十分だと、来店する顧客に満足のいくメニューを提供できないため、飲食店経営がうまくいかずにつぶれる可能性も高いです。たとえば、材料にこだわらない低価格の料理を提供しているにもかかわらず、ワインは高級なものを揃えていると、安さを優先する顧客も高級志向の顧客も戸惑うのではないでしょうか。
勝ち残る店は、ターゲットをあらかじめ明確に絞り込んでいるため、メニュー決めもしやすいのです。たとえば、流行に敏感な10代〜20代前半をターゲットにする場合、SNSで話題になりそうな料理を提供しています。
2.明確なコンセプトがある
ターゲットの絞り込みに関連して、明確なコンセプトを練れているかどうかも、重要なポイントです。コンセプトが明確だと、一度気に入った顧客が長く利用し続けるため、「勝ち残る店」になりえます。
コンセプトとは、具体的に飲食店の方向性やテーマなどを示したものです。端的に言えば、カフェであれば「ゆっくりとくつろげる空間」、「おしゃれでSNSで話題になりそうな空間」などが挙げられます。これ以上に独自の世界観を深堀し、他店にはない体験ができる飲食店として打ち出していくことが必要です。
3.料理・接客だけでなく「経営」を知っている
料理や接客が満足いくものであっても、「経営」を知っていないと飲食店で勝ち残ることは難しいです。「経営」を知っているとは、主に以下のことを指します。
数字管理を徹底し、利益を生み出す仕組みが整っている
人手不足や人件費高騰などの課題に対策を講じている
資金調達の方法がある
当初は目標の売り上げを達成していても、食材費や広告費に費用がかさむと赤字になり、最終的にはつぶれる可能性も出てくるでしょう。その点、勝ち残る飲食店では現状の数字管理を徹底し、利益を生み出す仕組みを整えています。
賃料が安くても集客できそうな場所に立地する、メニューを絞って食材のロスを防ぐなどが、コストを抑えて利益を出す方法のひとつです。ただし、コストカットを優先しすぎて料理の質を落とすと、客足が遠のきます。
人手不足は、飲食業界が抱える大きな課題です。勝ち残る飲食店は、IT化などの方法で人手不足や人件費高騰などの課題に向き合っています。
飲食店経営をする上で、アクシデントや社会情勢を理由に、急遽資金調達が必要な場面も出てくるでしょう。勝ち残る店は、金融機関との取引などであらかじめ資金調達方法を確保し、急に資金不足でつぶれることがないようにしています。
4.開業前に飲食店の一通りの業務に触れている
開業前に、飲食店の一通りの業務に触れているかも、長く続く飲食店経営の肝です。店の評価を大きく左右する味やサービス、雰囲気などは、一度飲食店を経験しないとなかなか掴めません。
その点、飲食店の業務に触れていれば、勝ち残るために必要な知識やノウハウを得られるでしょう。
調理に関する知識や接客のコツ、物件情報、人材採用や教育など組織づくりのノウハウ、店舗展開の方法など、一通り経験しておけば、独立後の経営にも間違いなくいかせます。
飲食店経営が「難しい」と言われる5つの理由
飲食店事業は、代謝が激しいビジネスであり、しばしば「飲食店経営は難しい」といわれます。「難しい」といわれる主な理由は、以下のとおりです。
圧倒的に競合が多い
場所を変えづらい
外的要因によって売り上げが大きく左右される
人材確保が難しい
利益率が低い
ここから5つの理由を詳しく解説します。
1.圧倒的にライバルが多い
飲食業は、ほかの業界に比べて新規参入しやすいため、圧倒的にライバルの多い点がひとつ目の理由です。
弁護士や公認会計士、司法書士などをはじめるには、士業の難関資格が必要であるのに対し、飲食店は基本的に食品衛生責任者や防火管理者の資格を取得すれば開業できます。食品衛生責任者も防火管理者も、基本的に講習を受講すれば資格を取得できるため、ほかの資格と比べてハードルが低いです。
ライバルが増えれば増えるだけ、顧客が自店を選ぶ可能性が低くなります。また、各店で価格競争が激しくなるため、ギリギリまで値下げすることで利益率が下がってしまうでしょう。
近年は、従来の飲食店に限らず、コンビニやスーパー、デリバリーフードなどさまざまな業態の店がライバルになりえます。
2.場所を変えづらい
出店の際に土地・建物の取得費用や内装費、厨房機器の購入費など、さまざまな初期費用がかかっているため、気軽に場所を変えにくい点も飲食店経営が難しい理由です。テナントとして営業している場合でも、中途で解約すると違約金を請求されます。
飲食業は、場所が非常に重要な業界です。味やサービスに自信があっても、人の流れを呼び込みにくい場所だと満足いく集客ができないでしょう。
出店当初は集客によい場所でも、競合の参入によって売り上げが減ることがあります。その場合でも、コストなどを考慮すると気軽に場所の変更ができないため、苦戦を強いられることになるでしょう。
3.外的要因によって売り上げが大きく左右される
天候や社会情勢などの外的要因によって、売り上げが大きく左右される点も飲食店経営の難しさの理由です。
たとえば、大雪や台風の日に外食をする人は少ないため、売り上げの低下が予想されます。一方でSNSやテレビなどで突如話題となり、売り上げが大幅に伸びることもあるでしょう。
また、天候や社会情勢は材料費に影響を与えるため、利益率にも関係します。農作物が不作で材料費が高騰すると、一定の売り上げを出していても経営を圧迫するでしょう。
売り上げや利益が安定しないと、いつどれだけキャッシュが必要かをあらかじめ把握できないため、突如現金不足に陥ってつぶれるおそれがあります。
4.人材確保が難しい
給与水準や労働環境のイメージにより、人材確保が難しい点も飲食店経営が難しい理由です。2022年9月に帝国データバンクが実施した調査によると、非正社員の人手不足企業の割合(上位10業種)において飲食店が1位(77.3%)で、前年同期と比べて30%以上も上昇しました。
職場の労働環境改善や従業員のフォローに努めなければ、人材を安定的に確保できずに運営が困難となるでしょう。
5.利益率が低い
さまざまなコストがかかるため、利益率が低い点も飲食店経営が難しいとされる理由です。経済産業省が発表したデータを元に売上高営業利益率を算出すると、飲食サービス業は約3.67%で、その他サービス業(約6.44%)や生活関連サービス業、娯楽業(約7.95%)などを下回っています。
今後、材料費や人件費の増加が深刻になれば固定費がさらに増加するため、利益率のさらなる低下もありうるでしょう。売り上げが減少すれば、赤字に転換しかねません。
なお、2020年度は多くの業種で営業利益赤字を計上しているため、今回は新型コロナウイルス流行以前の2019年度のデータから売上高営業利益率を算出しました。
業態別の利益率の目安
飲食店の業態によっても、利益率の目安は異なります。そこで、日本政策金融公庫の2019年度調査結果を参考に、売上高営業利益率を以下にまとめました。黒字かつ自己資本プラス企業平均もあわせて記載しております。
今回掲載した中では、そば・うどん店の利益率が高い結果でした。
それでも魅力的な飲食店経営
「飲食店経営は難しい」といわれる一方で、魅力もあります。
まず、「食」は人々の日常にとって不可欠であるため、将来的にも需要がなくなることはありません。また料理やサービスに満足した顧客から、「ありがとう」や「ごちそうさま」などと声をかけてもらえるため、やりがいを感じやすい点も魅力です。
さらに必要な資格が少ない分、誰にでも開業できます。集客方法やメニュー、サービス内容次第で、短期間で大手を脅かす存在になりえる点も魅力のひとつです。
勝ち残る飲食店経営の戦略
勝ち残る飲食店経営をするためには、まず飲食業界で経験を積むことが大切です。その上で、具体的に以下の戦略を立てるとよいでしょう。
事業計画を作り込む
資金繰り表を作成して現金の過不足を管理する
顧客情報の管理・分析を行いPDCAを回す
ターゲット顧客に合ったコンセプトやメニュー・集客施策にする
お店の規模やスタイルにあったPOSレジ・決済システムを導入する
各戦略を詳しく解説します。
事業計画を作り込む
事業計画を作り込むことでどのような飲食店をするのかが明確になるため、金融機関から信頼を得て資金調達がしやすくなります。作る際に、立ち上げようとしているビジネスの内容を自分自身で客観視できるため、よい点や悪い点が見えてくる点もメリットです。
事業計画には、資金調達方法や売上高、利益目標、セールスポイントなどをまとめます。具体的な書き方がわからない場合は、日本政策金融公庫のサイトにある創業計画書記入例を参考にするとよいでしょう。
資金繰り表を作成して現金の過不足を管理する
一定の利益を出していても、支払いが必要なタイミングで手元に現金がなければ倒産(黒字倒産)になりかねないため、資金繰り表を作成して現金の過不足を管理しましょう。現金不足が発生する主な原因は、「クレジットカードや電子マネーで支払いを受け付けることで入金のタイミングが遅れる」、「帳簿の管理が不十分で資金の流れを把握できていない」などです。
資金繰り表を日々作成していれば、資金不足となる状況を予測できます。資金繰り表も、日本政策金融公庫のサイトでフォーマットや記載例をダウンロードできるため、作り方がわからない場合は参考にするとよいでしょう。
顧客情報の管理・分析を行いPDCAを回す
競合が多い飲食業界だからこそ、顧客情報の管理と分析を行い、PDCAを回すことが大切です。PDCAとは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」で流れるサイクルを指します。
飲食店で今まで集客がうまくいっていても、それが数年後も同様に続くとは限りません。そこで、顧客情報の管理や分析を行えば、シニア層の来店数を維持している一方で若年層が減っているなどがわかります。
そこから「若者向けのメニューを考える(Plan)」「実際に提供してみる(Do)」「計画通りに若者の来店が増えたか確認する(Check)」「なぜ増えないのか分析する(Action)」を繰り返すことで、売り上げの低下を防げるでしょう。
ターゲット顧客に合ったコンセプトやメニュー・集客施策にする
効率的に集客できるように、ターゲット顧客に合ったコンセプトやメニュー、施策にしましょう。たとえば、若年層をターゲットにする場合はSNS、シニア層の場合はテレビや新聞を活用した集客施策にするなどの方法があります。
ただし、若い世代でも新聞やテレビを主な情報源にする人もいれば、シニア層でSNSを駆使する人もいるでしょう。若年層で高級メニューを好む人や、質より量を優先するシニア層もいるため、勝手なイメージや先入観を持ちすぎないように注意が必要です。
また、コンセプトがなかなか決まらない場合は、以下6つの項目をひとつずつ検討していくとよいでしょう。
いつ(営業時間)
どこで(出店するエリア)
誰に(ターゲットの絞り込みと同じ)
何を(メニュー)
なぜ(開業する理由)
どのように(提供方法や宣伝方法など)
いくらで(値段)
上記項目がすべて決まらなくても、いくつか決まればメニューや値段、立地場所などが自ずと絞られます。
お店の規模・スタイルに合ったPOSレジ・決済システムを導入する
飲食店開業にあたって内装工事や備品、広告などさまざまな費用がかかるため、お店の規模やスタイルに合ったPOSレジ、決済システムを導入しましょう。POSレジとは、商品や売上データの管理を効率的にできるシステム(POSシステム)を搭載したレジです。
POSレジや決済システムにかかる費用は、各提供会社によって異なります。また、小規模の店舗からはじめるのであれば、店頭での会計のやり取りを省ける非接触型決済サービスを検討するとよいでしょう。
最後に、利益を出しやすい飲食店経営の施策を確認しておきましょう。
賞味期限の管理を徹底し、在庫管理を適切に行えば、フードロスやコストの削減になるため、最終的に利益を出しやすくなります。在庫管理を適切に行うためには、従業員向けに管理マニュアルを作成する、管理システムを導入することなどがポイントです。
顧客が利益率の高い料理に注目するように、キャンペーンを実施する方法もあります。デリバリーやテイクアウトで利益率の高い料理を提供する方法も有効です。
生き残るためには開業前からしっかりと経営戦略を練ることが大切
競合が多い点や人材確保が難しい点、利益率が低い点などで、「飲食店経営は難しい」といわれています。一方で、誰でも開業しやすい点や、「食」へのニーズがなくならない点が飲食店を経営する魅力です。
飲食店経営に魅力を感じた場合は、生き残るために開業前からしっかりと経営戦略を練ることが大切です。具体的な戦略として、顧客情報の管理と分析、店舗の規模やスタイルに合った決済システムの導入が挙げられます。
テーブルチェックのコンタクトレス決済は、初期費用0円で店頭での会計のやり取りが一切なくなる点が強みです。自店に合った経営戦略を立てて、飲食店業界で勝ち残りましょう。