仁木 有花
2018年12月28日 · 読了時間:4 分
株式会社TableCheck代表取締役(CEO)
谷口 優
人は思いとキャリアを積み重ねながら、全うすべく"自らの使命"というものを自覚していく。現在の谷口を突き動かす行動原理とビジネスアイデアは、グローバルなクレジットカード決済代行会社に在籍していたという原体験の中で形成された。
「ちょうどホテル業界にカード決済とオンライン予約が普及した直後のことでした。当時の彼らが気にしていたのは"キャンセル・チャージが確保できるのか?"ということ。オンライン予約が可能となって、確かにホテルもエンドユーザーも便利になりました。しかし、その反面、急なキャンセルが発生しても、ネットで予約した人からキャンセル料を回収できないという問題に頭を痛めていました」
オンライン予約時にカード情報を必須条件とすれば、キャンセル・チャージの問題は一気に解決。カード決済を絡めたネット予約システムが業界のスタンダードになっていく現状を目の当たりにした谷口は、やがて飲食や美容業界においても主流になっていくだろうと確信。次なるキャリアステップと選択したのが、日本で初となる飲食店を対象とした共同購入型クーポンを活用したフラッシュマーケティング事業だった。4名の創業メンバーの中で唯一の日本人として事業拡大に注力。日本国内にそのビジネスモデルが急速に普及していった。
「それまでの常識で考えれば、レストランのネット予約はあっても、クーポンというカタチとはいえ、利用料金を前払いするというスタイルは、それまでの消費者の行動パターンとして存在しませんでした。以降、グルーポンやポンパレといった競合が追従していくことになりますが、これは大きな変換点だと感じましたね」
2011年に谷口はTableCheckを創業。レストラン紹介とフラッシュマーケティングを統合した、新たな自社サービスを作ろうと考える。もちろん、これまでのキャリアが集約されたカタチでビジネスアイデアが生まれたし、何よりも谷口自身がレストランで食事をすることが大好きだったということも少なからず作用した。
「僕自身、めちゃくちゃエンゲル係数が高いんですよ。飲食関係者はもちろん、逆にレストランをたくさん利用して、貢献しているユーザーがよりハッピーになることで業界全体が盛り上がる、そんな世界観を作りたいと考えていましたね」
最初に手掛けた事業はゴールドカードを保有する会員を対象とするフラッシュマーケティング。飲食店から特典の提示を受けて会員に告知し、事前決済を伴う予約を促すビジネスモデルを構築しようと試みた。さらに大手飲食サイトと提携。飲食店に対して利用促進を提案する代理店業務も手掛けていた。
「ところが、行く先々で断られてしまう。最大の理由は、"もうこれ以上、管理しきれない"というものでした。店側としては、確かに集客はしたいし、ネットも活用しなくてはならないという危機感はある。しかし、現状としては、複数の予約サイトや電話で寄せられる予約情報をすべて紙の台帳に書き込んで管理している。そんな状況では、これ以上新しい予約サービスが登場したところで一元管理なんてできやしないというのです」
世の中に目をやれば、様々な飲食店向けのネット予約サービスがあって、コンシューマーにとって便利なサービスが次々に登場しているというのに、店の側が完全に取り残されている…。そんな現状を目の当たりにした谷口は、"この台帳管理という旧態依然とした根本的な問題を解決しない限り、自分が目指そうとする世界は実現できない"と確信。エンジニアを中心としたシステム開発事業へと業態をシフトすることにした。谷口の頭の中には、すでに新しいデジタル台帳のイメージができあがっていた。
「店舗の稼働状況をデジタル化できれば、その情報を活用したいと考えるサービス提供会社がたくさん現れるだろうと考えました。なぜなら当時は店側が、例えばぐるなび用に数席用意し、それが埋まってしまえばもう、ぐるなびからの予約は受け付けないと。ところが、直接店に電話をすると"席は空いている"という。これではメディアとしての信頼性にも関わりますからね。デジタルで稼働状況を掌握するHUBになろうと考えたのです」 もちろん、例えそういったサービス提供会社が利用しなくても、自社でポータルサイトを作ればいい。あるいは現在、急増する外国人観光客に対し、旅行メディアを通じて情報を提供すればいいと谷口は考えた。
「まずは予約管理の現状を把握しようと、数百店舗を回ってヒアリングしました。やはり、ほとんどの店が紙の台帳を使用していたのですが、他にもエクセルや自社開発のシステム、アメリカの企業が開発したオープンテーブルというシステムを使っていたり、中にはカレンダーに書き込んでいるような店もありました」
限りなくアナログで非効率な世界の中で運営されている現状を目の当たりにし、自分たちがやろうとしている事業は間違いなく受け入れるだろうと確信も持った谷口は、頭の中にあったUIとシステム構成を一気にパワーポイント化してエンジニアと共有。こうして「TableCheck」の開発に着手したのは2013年のはじめのことだった。
プロトタイプは比較的スムーズに開発が進んだ。しかし、顧客が満足して、月額課金を了承するまでに長い時間を要してしまった。
「最初にテストで利用してもらって、お店の要望を聞きながらバージョンアップを繰り返していったのですが、なかなか100%満足するまで至らない。なぜなら、皆さんの頭の中には紙の台帳のイメージがある。紙の台帳は限りなくフレキシブルで万能ですから、硬直的なシステムでは実現できないことも、簡単に処理できますから」
客観的に評価しても、恐らく、その時点でかなり便利なシステムには仕上がっていた。しかし谷口は、ユーザーの要望を100%実現する必要があると感じていた。
「飲食店のスタッフにとって予約管理という業務は本筋ではない。誰もがそうですが、日常の中でプラスアルファの作業が発生することを嫌いますし、自分が望んだオペレーションが実現しなければ、そのシステムは必要ないと考えてしまう」
課金がされないままにテスト運用期間が続いていき、開発費用だけが膨らんでいく。まるで出口がどこにあるのかすらわからないトンネルの中を突っ走っているような気分だった。
「もうだいぶ来てしまったから今さら戻れない。とりあえず進むしかないけれど、燃料が心配、という状態でした」
しかし谷口には確信があった。この「TableCheck」というシステムは間違いなく市場で評価され、店舗のバックヤード業務の負担を大きく軽減し、飲食店の運営を根本のところから大きく変えるだろうということを。
「絶対に店の役に立つと思っていましたし、最終的には、それがユーザーのためにもなると考えていました。目の前に正解があるというのに、それを求めないというのは性格上できないと感じていました」
開発に着手してから約2年が経過していた2014年の2月、ついにすべてのテストユーザーが納得して課金に合意。飲食店が予約を管理するうえで発生するであろう、あらゆる業務をカバーするシステムがリリースされた。
「今でも年間300回ほどバージョンアップしていますが、ようやく9割がたは完成したかなといった認識です。僕が考える完全バージョンとなるまで、紙の台帳と鉛筆に限りなく近づくまで、開発を続けていきます」
反響は大きく、そして早かった。それは谷口にとって、想定内のことだった。今では、ホテルレストラン業界においてはナンバーワンのシェアを誇るまでに成長。ヒルトン、インターコンチネンタル、JR、オータニ、オークラといった名だたるホテルがユーザーとして名を連ねている。しかし、谷口が目指すゴールは、もっと先にある。それは起業したときから変わらずに抱き続けている"思い"の実現だ。
「最終的に目指しているのは、最高のレストラン体験の実現。そのために必要な情報を集約して届けるということです。『TableCheck』を利用する飲食店のデジタル台帳と直結するポータルサイトを用意することで具現化していきます」
現在取り組んでいる領域は3つある。行きたいと思ったときに、当日利用も可能な即時予約の普及、そして送客メディアに依存することなく、お店が主体的にリピーターと繋がるということ、さらにこれまで分断されていた、情報検索、予約、来店、支払い、評価といった各フェーズで取得できるデータを一括管理することで成立する消費者満足度の向上だ。
「データが集約できれば、どのような人がどのような目的で来店して、どのようなものを食べて、どのくらい支払って評価しているか、レストラン利用のサイクルにおいて、あらゆる切り口で顧客の属性が可視化できる。そうなればお店のオペレーションをサポートしながらリピーターに対してきめ細やかな対応ができる。レストランの貢献している人が満足してくれることでまた、お気に入りのお店でお金を使ってくれる。これこそが最高のレストラン体験から生まれるバリューだと考えます。そのファーストステージとしての「TableCheck」であり、2017年にリリースしたポータルサイトというセカンドステージへと段階的につなげていきます」
外資のホテルが評価をしてくれたことで、"世界でも戦える自信"もついた。台湾をはじめとする外国企業との取引もはじまっている。谷口が生み出した「TableCheck」の強み。それを生み出したのは、現場の声を100%拾い上げ、その声をカタチにした技術力、そしてビジネスモデルに対する根本的な考え方にあると自己分析する。
「システムを提供してネット予約が入ったら課金するというモデルが多い中で、僕たちはあくまで店の台帳とユーザーを結びつけるために何が必要かを追求しているため、変な雑音がない。ネット予約を増やして儲けようとするとどうしても送客に寄った開発を優先しますけれど、僕らはそうではない。あくまで月額課金にしようと最初から決めていたんです。だって僕たちは最高のレストラン体験を最適化したいのであって、最高のレストラン検索を最適化したいわけではない。店舗独自のホームページから予約が入ることが理想だって思っているのですから」
ぶれない理想を追求するために、何度も何度も自問自答を繰り返し、システムだけではなく事業モデル自体のバージョンアップを図っていく。"完全主義者"ともいえる谷口の挑戦は続く。
インタビュアー・執筆/伊藤秋廣
仁木 有花
埼玉県出身。神田外語学院英語専攻科卒業後、ホテル椿山荘東京(旧・フォーシーズンズホテル椿山荘)へ入社。 10年超にわたり和洋レストランでの現場経験を積み、サービスコンクール等での優勝実績を持つ。2016年に入社し現在は広報を担当。日本ソムリエ協会認定 ソムリエ。趣味は映画鑑賞と柔術。
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